ボトル一本飲みウイスキーレビュー

スコッチを中心にバーボン、アイリッシュ、たまにラムも

【考察】ピートの香り成分について1

●背景
某ハイランドモルトを飲んだらピートの香りがまったく好みでなかった。アイラのピートは好きなのになぜ?という疑問が湧き、香りの成分の違いについて調べてみることにした。


●好きなピート、苦手なピートの傾向
個人的な好みではあるが、好ましいピート香のボトルと苦手なボトル、その中間のボトルを挙げる。

好きなピート香

苦手なピート香

好ましくはないが許容範囲

好きなボトルの共通点はピート香が強いこと、いわゆるスモーキーなタイプであることだ。反対に苦手なボトルはさほどピート香が強くなく、スモーキーさは弱めである。また個人的には枯れ草のような植物っぽい香りとリコリスのような味が感じられる。
他に傾向がないかみてみると、ボウモアタリスカーで熟成が短いものより長いものの方が好ましく感じていることがわかる。(たまたまかもしれないが)


●そもそもピートとはなにか
日本語では泥炭とよばれ、涼しく湿った環境で堆積した植物遺骸(要は枯れ草)が、長い年月をかけて微生物により分解されたもの。ものすごく長期間かけて作られた腐葉土の成れの果てのようなものである。これを乾燥させると燃料になる。スコットランドでは豊富に産出するため、ウイスキーの原料である麦芽を乾燥させる際にピートを燃やした熱風を用いた。これによってピートの香りが麦芽につき、出来上がったウイスキーにも残る。(このブログを読んでいる人には釈迦に説法かもしれない。)
ピートの元になる植物はスコットランドではヒース(ヘザー)が有名。堆積したピートは基本的に深いところにあるものほど古いものだ。ハイランドパークで使われているピートは8千年から2万年前のもの*1だそうだ。それだけ長い年月を経れば腐って何だかわからないものになってしまいそうだが、涼しい気候と嫌気性雰囲気(酸素が少ない)のためか分解速度は遅いようで、元が植物だったことはなんとなくわかる。ここで掘り出す深さ(=堆積してからの期間)によって分解度合いは異なるため、含まれている物質にも違いがあると考えられる。


●ピート香の成分
ピート香の成分を調べてみると、代表的なものはフェノール、クレゾール、グアイアコール、2-エチルフェノールなど*2らしい。全てフェノール類と呼ばれる物質だ。それ以外の香りの成分は調べてもあまり情報がない。
フェノールの匂いは子供の頃に使った水彩絵の具の匂いである。(たまに絵の具のような匂いがするウイスキーはあるが、ピートが強いものではなくシェリー樽由来のように感じられるので、あれはまた別の物質によるものかもしれない。)
クレゾールはいわゆる消毒薬の匂いである。最近は病院であまり使われなくなっているので若い人は知らないかもしれない。ウイスキーでいうとラフロイグのイメージだ。
グアイアコールは焦げた匂い、2-エチルフェノールはタールのような匂い*3だそうだ。それぞれ単体でかいだことがないので具体的にどんな匂いかはよくわからない。
ここで我々がピート香として認識している物質は、ピートに元々含まれている成分とそれがウイスキーの製造過程で化学変化したものが考えられる。化学変化を起こしうる過程としては麦芽乾燥時のピートの燃焼、発酵、蒸留時の加熱、樽内での熟成である。必ずしも元々ピートに含まれている物質の香りを感じているとは限らない。


●香りの違いの要因
ここでこれまで調べた情報を整理し、香りの違いを生む可能性がある要因を挙げる。

  1. 使われているピートの組成が異なり、含まれている成分が異なる。組成の違いは元となった植物の違いor堆積してからの年月の違いによる。
  2. ウイスキーの製造行程の違いによっても成分の違いが生じている。

これらの中で今回はピートの組成の違いについて考えてみる。
次回に続く。