ボトル一本飲みウイスキーレビュー

スコッチを中心にバーボン、アイリッシュ、たまにラムも

【考察】ピートの香り成分について2

●ピートに含まれる成分の違いについて
成分の違いとして考えられる要因のうち、堆積してからの時間についてはすぐには調べられない(蒸留所に聞くしかない)ので置いておく。
もうひとつの元になった植物の違いについて考えてみる。まず最も苦手な香りであるハイランドパークの公式サイトの記述を引用する。

www.highlandparkwhisky.com
"Completely woodless, this dense heathery peat burns slowly and with an astonishing intensity to create a complex floral aroma in our kilns that delivers the intensely balanced smoky sweetness found only in Highland Park."
「まったく木を含まない密度が高いヘザーのピートはキルンの中でゆっくりとそして驚くほど強く燃え、複雑でフローラルなアロマを生み出し、ハイランドパークならではの非常にバランスがとれたスモーキーな甘さをもたらします。」

ヘザーが多く含まれたピートを使っていることを売りにしている。
次に同じく苦手なボウモアの公式サイトを見てみる。

www.bowmore.com
"It’s made from compressed layers of organic material such as grass, heather and moss, and formed over thousands of years."
「草、ヘザー、コケなどの有機物が圧縮された層でできており、数千年以上を経て形作られた。」

ここでもヘザーである。他に草(大雑把すぎないか?)とコケ。
次に好きな香りであるラフロイグの公式サイトを見てみる。
https://www.laphroaig.com/en/whisky/our-processwww.laphroaig.com
"Having never really had expansive forests or thickets, our peat - historically the only fuel available for the drying out of our malted barley - is made up of a much higher ratio of Sphagnum (or 'peat mosse' to you and I), and it's the moss that's responsible for Islay whisky's medicinal taste. Of course, depending on location, no peat bog on Islay is exactly the same either. This is a fact especially true of our own Glenmachrie peat bog, its particular mix of heather, lichen and moss responsible for our smoky, iodine-like and medicinal profile."
「(略)我々のピートはミズゴケ(もしくはピートモス)の割合が高く、このコケはアイラ島ウイスキーの薬品のような味を担っている。もちろん場所によるのでアイラ島のピートボグであっても全く同じものはない。これが我々のGlenmachrieピートボグ(ヘザーと地衣類とコケが特別な割合で混ざっている)が、スモーキーでヨウ素のようで、薬品のような特徴を担っていることに特に当てはまる。」

moss(コケ)の割合が高いそうで、これが薬品臭さの要因らしい。またピートボグ(泥炭地)は場所によって組成がだいぶ異なると言っている。
次も好きな香りのキルホーマンの公式サイト。
kilchomandistillery.com
"Cut from Islay’s many ocean-soaked peat bogs and used to smoke the germinating barley, the unique make-up of Islay peat adds layers of rich, maritime smoky character to the whisky. "
アイラ島のたくさん海に浸されたピートボグから切り出され、発芽した大麦のスモークに使われるアイラ島のピートのユニークなメイクアップは、リッチで海のスモーキーなキャラクターの層をウイスキーに与える。」

海に浸されたというのがポイントだと言っているようだ。ネットでは海藻が含まれたピートが海の香りを醸し出す、みたいなことが書いてあるが、ちょっとニュアンスが違う。(海水を被れば単細胞の藻類が含まれることにはなるだろうから、字面的には間違いではないかもしれないが。)

まとめると、

  • ハイランドパークで使われるピートはヘザーが多いことを売りにしている。
  • ボウモアのピートにもヘザーが含まれているが、割合が多いかどうかは不明。他にコケ、草。
  • ラフロイグのピートはコケが多いことが特徴で、薬品臭をもたらしている。ほかにヘザーと地衣類。
  • キルホーマンのピートは海に浸ったことが特徴で、海っぽいキャラクターをもたらしている。

この中で私が一番苦手とするピートの香りはハイランドパークである。ということはヘザーが苦手な香りの原因ではないだろうか?


●ヘザーとは
和名はギョリュウモドキといい、この種だけでギョリュウモドキ属を構成する*1。近縁のエリカ属*2とともにヒースの代表的な植物らしい。ややこしいことに低木が繁る荒れ地のことをヒースと呼ぶとともに、そこに生える植物のこともヒースという*3。どうも狭義にはエリカ属のことをヒース、ギョリュウモドキをヘザーと呼ぶようだが、あまり区別されていないように見える。というか、たぶんピートになったらどちらかわからないだろう。おそらくヘザーのピート(heathery peat)と呼んでいるものの中には両方の属が含まれていると思われる。

ここでハイランドパークの公式サイトに「まったく木を含まない(completely woodless)」という記述があるが、ヘザーは木ではないのか?という疑問がある。Wikipediaによればヘザー(ギョリュウモドキ)もヒース(エリカ属)も「常緑の低木」とのことだし、園芸関係のサイトにもエリカは低木だと書いてあったりする。公式サイトの記述も結構適当なのかもしれない。とはいえ、他に情報源があまりないのも事実なのでひとまず信じることにする。


●結局ピートのなにが違うのか?
見も蓋もないがよくわからない。ただし少なくとも公式サイトの記述から、各蒸留所が使っているピートの組成がウイスキーのピートフレーバーを特徴付けていると考えていることがわかった。そして現時点では、ハイランドパークがヘザーを売りにしていることから私が苦手な香りはヘザーに由来している可能性があると考えている。


なお、本当はウイスキーの成分を分析した論文を調べて考察する予定だったが断念した。どうもウイスキーの成分と風味の関係はそれほどわかっていないようなのだ。IR(赤外分光)などで成分の違いがわかったとして、それが人間が感じる風味とどう関係しているかを調べるには、注目する成分を切り分けた上で官能試験をしなければならない。ましてやピートの成分の違いを調べるとなると、ピートに含まれる成分が製造行程でどんな反応を経て最終的にウイスキーに含まれるのかまで考える必要がある。これはなかなか労力がかかる仕事だ。大手メーカーが資金を出してくれれば研究が進展するかもしれない。