ボトル一本飲みウイスキーレビュー

スコッチを中心にバーボン、アイリッシュ、たまにラムも

ピートが強いウイスキーの味覚への影響1

ウイスキーが何本も家にある方々に是非試して欲しい実験がある。ウイスキー好きなら知っている人も多いかもしれないが。


●用意するもの
ピートが強いウイスキー(Aと呼ぶ)
ノンピートのウイスキー(Bと呼ぶ)

●やり方
1.Aをストレートで一口飲む
2.Bを一口飲む
3.1と2を繰り返す

Bを単体で飲んだ時とは味が異なって感じられないだろうか。口に含んだ時の刺激が緩和されるとともにフルーティな甘さが強調され、ものによっては全く別のウイスキーのように感じられる。ここでAを飲んだ後、Bをしばらく飲むと味の変化はなくなってくる。

ちなみにAはアイラモルトがおすすめ。アードベッグラガヴーリンラフロイグ、キルホーマン、カリラあたりは効果があることを確認済み。


●なぜ味が変わるかの仮説
Bが異なる味に感じられる原因には大きく分けて2つの可能性がある。

1.Aの影響で実際に味が変わっている。
2.Aの影響で飲む人の味の感じ方が変わっている。

さらに2はふたつに分けられる、

2-1.心理的なものが原因
2-2.生理的なものが原因

それぞれについてあり得そうか考えてみよう。


●実際に味が変わっている?
ここで言う味が変わるとは味覚を刺激する物質が新たに生成される、もしくは元々あった物質がなくなる(他の物質に変化する)ことだ。可能性としてはピートが効いたウイスキーに特徴的な成分であるフェノール類などが、後から飲むウイスキーの成分を変化させていることが挙げられる。

結論から言うとこの可能性は低いと考えている。
ブレンデッドウイスキーを考えてみよう。多くのブレンデッドウイスキーにはアイラモルトが(量が多い少ないはあれど)ブレンドされている。しかし今回の実験のような刺激の抑制とフルーティな甘さが強く現れているわけではない。今回の実験のように口の中にわずかに残ったAとBの中の何かが反応しているなら、ブレンドに使われるほどの量であればもっと反応性生物が多く効果が高いと推測できるのに、だ。

ただ実はAとBに含まれている物質が反応した時の生成物の寿命が短いという可能性は残っている。ブレンデッドウイスキーが店頭に並ぶ頃には生成物は分解されてしまっているということだ。これを確認するにはAとBを混ぜてすぐに飲んでみればわかる。興味がある人はやってみて欲しい。


●味の感じ方が変わっている 心理的なものの影響?
これについてはサンプルが自分一人だけなので現時点では何も言えない。ただ感覚としては明確に味の感じ方が変わっているので、あまり可能性は高くないと考えている。


●味の感じ方が変わっている 生理的なものが原因?
これについてはまず味を感じる仕組みについて説明する必要がある。味覚には甘味、塩味、酸味、苦味、うま味の5つの基本味がある。舌にあるそれぞれの味に対応する受容体が刺激されることによって脳は味を認識する。受容体が何によって刺激されるかはそれぞれ異なる。例えば甘味なら糖類など、塩味ならナトリウムイオンや塩化物イオンといった具合である。
基本味以外にも辛さや温度に刺激に反応する受容体もある。TRPV1*1といい、唐辛子の辛味成分であるカプサイシンによく反応する(そのためカプサイシン受容体とも呼ばれる)。ただし上記の基本味の受容体とは異なりTRPV1は舌以外にも存在する。

さて、ではこれらの受容体が今回の実験にどう関係しているだろうか。考えられるのは以下のパターンだ。

2-2-1.Aに含まれる何かが刺激を感じる受容体の反応を弱めている
2-2-2.同じく甘味を感じる受容体の反応を高めている
2-2-3.上記の両方

次回はこれらについて詳細に考えてみる。